ピッチャー・キラー 前編
本日は黒撰高校との3回戦の日。
今回は前回の明嬢戦のようにミーハー少女のかしましい声に悩む事もなく、試合ができるだろう。
…と思っていたのだが。
「…なんでアイツがここに来てるんだ…。」
今日この場にいる筈のないかしましい娘さん方を引き寄せる磁石が存在していた。
「きゃーっ雛くんvv」
「いやあああこんな近くで見れるなんて幸せ〜〜〜っ!!」
「……だ〜〜〜っ!!
何しに来たんだよあいつは!!
まだキザトラ先輩に何か言いたいことでもあるのかよ〜〜!!」
女子にはとってもモテない男、十二支高校1年生猿野天国はこの状態に苛立ちを隠せなかった。
その苛立ち紛れの叫びの中で、怒りの矛先が自分に向いた事を
キザトラ先輩こと虎鉄はよく分かっていたが。
かつてのチームメイトが自分も想っている…先程叫んだ本人、
猿野天国目当てに応援に来ているのだと言う事を伝える事はしなかった。
わざわざ敵に塩を送るつもりはないし。
ちょうど天国を呼ぶ雛壇の声は、女性の声にまぎれて天国には届いていなかったから。
だが、そんな虎鉄の想いとは裏腹に。
「だ〜〜〜もう我慢できん!!
直接文句言ってきてやる!!」
「なっ!?」
ついにブチきれた天国は(早)ベンチを出るとスタンドに足早に向かっていった。
「おい猿!!」
ベンチの入り口のすぐ傍にいた犬飼は、愛しい天国が敵のところに行くと知り、すぐに後をつけて行った。
「こらこら、待ちたまえ君達!!もうすぐ試合だよ!!」
「あ、キャプテン、オレが呼び戻してきまSu!」
虎鉄がいち早く自己主張したが。
「待て、これ以上レギュラーが外に行くのもまずい。
子津。それと…一宮、お前行って来い。」
「は、はいっす!」
「…分かりました。」
子津はすぐ素直に、一宮は少し間があったが、承諾した。
そして二人が後を追っていく事になったのだが。
鹿目も腰を上げたそうにしていたが。
さすが三年レギュラー。責任感と試合に出たい欲求は誰よりも強かったようで。
一人このあと起こる争いから席をはずす事となった。
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その頃スタンドでは。
「君たち、申し訳ないが今日僕は純粋に応援に来たんだ。
すまないけどもう少し静かにしてくれないか?」
雛壇は、周りに群がった女性ファンたちに静かにするよう説明していた。
雛壇としては女性をむげになどできるはずもないし、したくもなかったが。
これで目的の天国を応援する事ができなければ来た意味がない。
彼は試合の翌日、自分の気持ちを抑えられず十二支に会いに行った。
しかし、試合が終わったあの日から合宿に入ったと聞き、
しかたなく今日この日を楽しみにやってきたのである。
そんな事を思い出しながら、ふと雛壇は十二支のベンチに視線を移した。
「あ、あれ?猿野がいねぇ!」
「呼んだか〜〜?!」
すると突然、貞子調のヅラをかぶった天国が雛壇の後ろからぬっと現れた。
「どわあああああああ!!!」
あまりお化け系列は得意ではなかったらしい雛壇は、流石に驚いた。
「ぎゃはははは、理想的な反応!!」
天国は雛壇の反応に大満足した様子だ。
「…何してんだ全く。」
呆れながら犬飼が遅れて天国の元に到着する。
「さ…猿野…。」
一通り驚いた雛壇は、天国を呆然と眺めた。
するとだんだん雛壇が泣きそうに顔をゆがませる。
その顔を見て天国は少し焦った。
「え?やば、そんなにびっくりさせ…。」
「猿野ぉぉっv会いたかっただよ〜〜〜!!!」
「え?!」
次の瞬間雛壇は満面の笑顔で天国に抱きついた。
「!!」
「あ…。」
「さ、猿野くん!!」
「きゃああああああ!!!」
その場面を見て犬飼は硬直し、その時にやっと追いついた子津と一宮は驚き、
女性たちは驚愕と歓喜(?!)の悲鳴を上げた。
「な、なんだなんだ?!」
当事者の天国は、いきなりの雛壇の行動にパニック状態である。
自分より少し高めの身長と整った体つき、
思ったよりしっかりとした筋肉のついた腕が自分を力強く抱きしめてくる。
その事がどういう意味を持つのかすぐにわかるはずもなかった。
周りは別として。
そしてそんな周りの一人、犬飼は硬直を速攻でとかすと、雛壇から天国をはがした。
「てめえいきなり何やってやがる!!」
「い、犬飼〜〜!!」
このとき、天国は初めて犬飼が王子様に見えた。
…気がした。
その後自分の腕の中に天国をきっちりちゃっかり抱きしめなければ。
「おめえは…試合ン時のピッチャーでねえか。
おめえこそ猿野を離すだよ!!」
天国に抱きついてから枷がはずれたのか雛壇は方言で話しはじめる。
こちらの喋り方の方が芯がしっかりとして見えるのだから不思議だ。
だがだからと言って説得力があるわけでもないし、犬飼もその言葉を受け入れる気は全くなかった。
「ふん。女を侍らせてちゃらちゃらと歩いてるようなアイドル様がコイツに何の用だ?」
「侍らせるなんて言葉使うんでねえ。おなごたちに失礼だぞ!」
その場の光景を見ていた子津はどうしたものか、と思案していた。
一宮は放棄したそうな顔をしていたが、
試合のこともあり天国をほおって置くわけにいかず難しい顔つきをしていた。
「ふ〜〜ん、びみょ〜〜に対象的だね〜〜。」
「!!」
その時急に聞いた事のあるゆるい声が子津と一宮の後ろから響いた。
「あ…あなたは!!」
「……セブンブリッジの鳥居か。」
そう、黒撰高校と十二支高校の試合を見に来ていたセブンブリッジ学院のエースピッチャー、鳥居剣菱だった。
「やあ〜〜君はねずみくんで、そっちのメガネくんはえ〜〜いちみやくんだったかな〜〜?」
「…子津です…。」
「いちのみや…だ。」
相変わらず人の名前の覚え方が微妙にずれているようだった。
だが、今はその事に長くこだわっている場合ではなかった。
「で、鳥居…あんた何をしに来たんだ?」
「うん〜〜びみょ〜〜にてんごくくんはどこかな〜〜と思ってね。
そしたらスタンドで面白い事になってるみたいだったから〜〜。」
「面白くないっすよ!!」
「全くだ。相変わらず貴様は不謹慎だな。」
「…それで、何お前らぼけっとしてるわけ?
とっとと猿野持って下降りればいいんじゃねーか。」
再度別方向から二人分の口がはさまれる。
「あっれ〜〜華武の皆さんもごと〜〜ちゃく?」
「フン、猿ガキの姿が見えんと思ったらこんなところにいたのか。」
現れたのはセブンブリッジ学院と同じく今日の試合を見に来ていた華武高校の2大ピッチャー、屑桐無涯と帥仙刃六だった。
「…なんかすごいメンバーになってるっすね…。」
「……収拾つくのかよ?これ。」
十二支高校のピッチャー二人が頭を悩ませながら。
争いごとは佳境に入っていくのでありました。
To
be Continued…
す…すいません、続いてしまいました!!
続編は一週間以内に必ずお届けします!!
珊瑚姫様、本当に申し訳ありません!!
ピッチャー争奪戦ということですが数人はぬけます。
でも魁にーさんは頑張って入れますので、もう少々お待ちくださいませ!
本当にすみません!
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